98年梅雨頃に、テレビで流れていた舞台『身毒丸』のCMの中で、
有象無象の群れが現れる最初のシーン
母と書かれたお面をそっと外す撫子(なでしこ)
母札を持って立ち上がる身毒丸
そして最後の二人抱き合うシーン
そんな芝居のシーンが流れる合間に、稽古風景が一瞬映る
慌ただしく走り回るスタッフの中で、蜷川幸雄さんが、やさしく言い聞かせるように藤原竜也さんに演技を指導している。その空間だけ、静かに時間が流れている。
身毒の衣装のまま、蜷川さんの顔を見ずに、その一言一言を聞き逃すまいと空をみつめたまま、「はい」と小さくうなずく。「はい」と噛みしめる。
体全体で蜷川さんの言葉を取り入れ、体の中におさめてゆく。
直立したままの二人の姿は、これから共に凄いものを作り出そうとしている原点のように見えた。
コマーシャルだから一瞬のことなのに。ゆっくりと今の二人の姿へとつながってゆく。
その昔、藤原さんにとって蜷川さんはどんな存在なのかと聞かれた時、「ん〜ん、マブダチ」「ウワ〜、言っちゃった」と冗談めかしておられたけれど、本心に思えた。
いい相棒になってゆく。
オレステス大阪公演が始まります。